第5話「歩き遍路だからわかる道の魅力」

トラベルライター 歩き遍路紀行

トラベルライター 朝比奈千鶴さんによる、歩き遍路体験紀行を全5話に渡ってご紹介します。

歩いて得られた不思議な感覚

 旅としての歩き遍路の魅力は、なんといっても「道」にあると思う。四国独特の等高線がひしめく地形を足で体感できること。しかも、1日じゅう歩いてちょうどいい場所に宿がある。これは四国霊場が開場して1200年の歴史もあるからだろうが、信仰の道は歩き遍路のように何日も歩かなくても、1日だけの軽い登山や峠道のトレッキングするのにもふさわしい起伏に富んだ道として整備されているのだ。

 特に気に入ったのは、標高550mの場所にある山岳霊場、20番札所鶴林寺の麓から階段を上がる道。途中でぱっと景色が広がる場所があり、一度那賀川まで下ってまた標高610mの太龍寺まで、自分が歩く道程が地形を伴って見渡すことができる。ああ、こんなに歩けないかも、と思いながら金剛杖を突いて歩いていると、いつの間にか歩ききっていたから不思議。21番札所太龍寺からは日が落ちて暗くなり始めたので急いだため、山道を楽しめなかった。そこで私は日程を変更し、翌日はロープウエイで太龍寺に上がり、帰りは遍路みち協力会の手で復元した「いわや道」から大根峠を下った。50年近く閉鎖されていた道は土がフカフカで自然のクッションに足裏をマッサージされているかのようだ。ぜひとも歩いてほしい気持ちのよい道だ。

 もうひとつ、のどかでよいなと思ったのは18番札所恩山寺から19番札所立江寺へ向かう間にある「義経ドリームロード」。高低差がほぼなく、竹林の中を歩いたあとは、柑橘畑は広がる。私が歩いた初冬は実がたくさんなっており、甘酸っぱい香りとオレンジ色の風景に元気づけられた。

 何度も足を運ぶたびに車で移動をしてきた徳島県内を今回、歩いてみてひとつ不思議な感覚を覚えた。なぜか車に乗るよりも歩く方が札所と札所の間が近く感じるのだ。日頃気ぜわしく過ごしているせいか、1日じゅう歩く、そして参拝するというシンプルな時間を過ごすと、身体感覚が変わるのかもしれない。何はともあれ、まずは3日間歩いてみると、その感じがつかめてくるだろう。お遍路さんとして思い立ってひとりで歩くのは、最初は気分的にハードルが高いかもしれない。でも、歩く難易度のハードルは実はそんなに高くない。だから一歩踏み出して歩いてみよう。きっと今までと同じ”歩く”行為をしていても違う風景が見えてくるはずだから。

遍路道の風景たち

いわや道

地元の人たちやへんろみち保存協会の人たちの手によって復元された「いわや道」。21番札所太龍寺から22番札所平等寺に通じる道。50年間ほとんどの人が足を踏み入れていなかったいにしえの道は土が踏み固められていないので、ふかふかとして歩いていて気持ちがいい。自然のクッションがあるようだった。

平等寺

いわや道、平等寺道を経て、平等寺に到着。阿瀬比集落からここまでの道のりは峠越えをしなくてはいけないが、のどかでハイキングとしても楽しめる道だった。

義経ドリームロードの竹林

義経ドリームロードの竹林。竹やぶからやさしい光が射し、気持ちのよい風が吹く。この中を歩いていると、日本昔ばなしの世界へ迷い込んだような気分になる。そして、このまま柑橘畑の道へ続くドラマティックな道。

遍路道

22番平等寺から23番薬王寺まで約20.7km。途中で海沿いを歩くこんな遍路道がある。道端に立っているたくさんの句碑やさざ波の音に背中を押されながら歩くと、あと少し!と励まされている気分に。

ターコイズブルーの海

23番薬王寺に近くなると、いきなり、ターコイズブルーの海が広がる。徳島も地域によってがらりと見える景色が違うのだ。幾つもの峠を越えて美しい海に出会うと、徳島1国参りクライマックスに近づいた感動もひとしお。

トラベルライター 朝比奈 千鶴

トラベルライター 朝比奈 千鶴ディスティネーション(訪問先)の自然や文化を体感することで、旅人が身近なものへのつながりを実感する旅を「ホリスティックトラベル」として提案している。
これまで、国内外の「人びとの暮らし」を取材し、文章や言葉を通して“暮らしの延長線にある旅”を、Webや新聞、雑誌などに綴っており、CS旅チャンネル「ホリスティックな週末」でのナビゲーター役もつとめた。