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第3話「お接待とおせっかい」

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トラベルライター 歩き遍路紀行

トラベルライター 朝比奈千鶴さんによる、歩き遍路体験紀行を全5話に渡ってご紹介します。

さらりと差し出す、“もてなし力”に感動

 前回の話で、遍路用語について書いたが、徳島県を歩いていて他の観光地とずいぶん異なるなと思うのは、土地の人が「お接待」という言葉をよく使うことだ。接待といえば、自分(または所属する団体、会社など)の利益のために相手をもてなす、という意味合いの言葉だが、ここでの言葉の意味はちょっと違う。何の見返りも期待せず、通りがかりのお遍路さんに親切にすること、それがすなわち、「お接待」なのである。

 もちろん、それには深い意味があり、四国ではお遍路さんは弘法大師と一緒に歩いている存在なので、すなわち、尊い人とされる。なので、お遍路さんにお接待をすること=弘法大師をお接待すること、と同様な意味合いがあるという。やんわりとした見返りを期待しているといえばそうなのかもしれないのだが。各地に地域や個人で運営している接待所や善根宿という一宿を無料で提供する場所もあるのには、あちこち旅をしてきた私でも驚くべき風習のような気がする。

 道でお接待されるときもあるが、お接待をする人は声をかける相手を選んでいると思う。なぜならば、元気よく歩いているときには全く声をかけられないから。反対に、しんどそうにしていると助けを差し伸べてくれる。同時期に、ひとりで歩き遍路を行っている男性と会ったのだが、聞くと、彼はあちこちでジュースやアイスをもらってお接待されているのに、同じ日に同道程で歩いているのに私は一度も恩恵に授からなかった。寂しいなと思いつつ、お接待を期待する気持ちが邪念なのだと気づき、それからは考えるのをやめた。

 その後、険しい道を終えた後の道路を歩いていると、色んな人に飴や果物、ジュースなどを手渡された。トイレを借りた民家では、缶ジュースをいただき、かえって恐縮したことも。わざわざ呼び止められて素敵な包み紙に入った飴を持たされたこともあった。果ては100円玉を握らされて「お線香を買いなさい」と拝まれたことも。徳島に一番札所があることから、ここからお遍路を始める人は多い。だから必然的に地元の人たちは先代の姿などを見ながら、お遍路さんを接待することには慣れているのだ。それ、すなわち先祖代々より功徳を積むことなり。

 ときたまに、その良心がお遍路には辛いときもある。ただでさえ荷物を減らして歩いているのだから、大きなみかんを袋にいっぱいや、西瓜をまるごといただくのは苦行のようなものである。捨てるわけにいかないし、ひとりでは食べきれない。お接待とおせっかいは紙一重であることを感じることもあった。ただ、その日にふたつ山を越えるため、歩くのが大変と思われた19番札所立江寺と20番札所鶴林寺の間、お接待として声をかけていただき、7キロほど車に乗せてもらって距離を稼げたのは私にはとてもありがたかった。その日は21番札所太龍寺を参拝し終わった時点でもう日が暮れそうだったから、乗せてもらわなかったらきっと暗い山のお遍路道をひとり寂しく歩いていたことになったのだろう。

 お接待する側、される側、どちらの視点に立ったとしても、見知らぬ人にかかわるというのは、それなりに勇気も労力がいる。さらりと声をかけられる徳島の人たちに、いくら慣れているといえど素晴らしい"もてなし力"を感じた。

思い出に残るお接待

おむすび

最初お接待をしてもらったのは遍路ころがしに向かう際にお昼に、と渡されたおむすび。多くの歩き遍路を直筆の手紙を添えて送り出してきた宿の心配りに感激。でも、この日から台風の影響で雨が続き、歩くのを断念。いったん戻ってまた初冬に出直した。

たくさんの花

道端や住宅の軒先にたくさんの花を見かけ、和んだ。こういった遍路道の風景の維持も徳島のお接待力のひとつと思っている。

お茶とサイダー、お菓子

「ちょっと冷房にあたって休んでいきなさいよ」。体温よりも気温が高くなろうかという猛暑日に歩いていたため、納経所でお茶とサイダー、お菓子のお接待をいただいた。このサイダーの炭酸が、歩きっぱなしの喉にくううと沁みる。

飴とみかん

わざわざ呼び止められて、渡された飴とみかん。渡してくれた方は時間があると折り紙で飴を入れる箱を折っているという。「なぜ、このようなことを?」と聞くと、「うちでは、先祖代々、家の前を通りかかったお遍路さんにはこうやってお接待しています。私の代で絶やすわけにいかない」と返ってきた。

ヘンロ小屋

歩き遍路の人たちが途中で休めるように建てられたヘンロ小屋。徳島県海陽町(旧海南町)出身の建築家、歌一洋さんの主宰する「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」によってボランティアで各地に建てられている。

トラベルライター 朝比奈 千鶴

トラベルライター 朝比奈 千鶴ディスティネーション(訪問先)の自然や文化を体感することで、旅人が身近なものへのつながりを実感する旅を「ホリスティックトラベル」として提案している。
これまで、国内外の「人びとの暮らし」を取材し、文章や言葉を通して“暮らしの延長線にある旅”を、Webや新聞、雑誌などに綴っており、CS旅チャンネル「ホリスティックな週末」でのナビゲーター役もつとめた。

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